【窓論】2023年度共通テスト国語第1問現代文評論の解答を明快解説-東大出身プロ国語講師

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オンライン個別指導「飛ぶ教室」講師けんです。今回は2023年度共通テスト国語第1問現代文評論を解説します。第2問はこちら
きちんとそれぞれの問題の解法を論理的に説明し、しかも正答以外の選択肢が不正解になる理由も説明しているサイトとしては、この記事が最速で最良であると自負しています。
問題冊子は色々なところで閲覧できますが、下のページを挙げておきます。
https://www.koukouseishinbun.jp/articles/-/9572

目次

2023年度共通テスト国語第1問現代文評論

出典

文章Ⅰ:柏木博『視覚の生命力ーーイメージの復権』
文章Ⅱ:呉谷允利『ル・コルビュジエと近代絵画ーー二〇世紀モダニズムの道程』

正答一覧

設問解答番号正解配点
1112
232
322
442
532
2637
3727
4857
5937
61044
1124
1234

問1.漢字問題

漢字問題は解説を省略させていただきます。

問2.傍線部A「子規は季節や日々の移り変わりを楽しむことができた」とあるが、それはどういうことか。その説明として最も適当なものを、次の①〜⑤のうちから一つ選べ。解答番号は6。

傍線部の段落のみを読めば解くことができる問題です。傍線部の前を読むと、「視覚こそ」「視覚の人」という表現が続くため、傍線部には、「季節や日々の移り変わりを楽しむこと」としかありませんが、当然「見ることで」とか「視覚を通して」という語句を補って読む必要がありますね。この要素がなければ正答にはなりえませんので正解は③です。
(①は、「眺める時間が」有意義な時間だ、と書いてある通り、「時間」が主題です。「見ること」という行為と「眺める時間」は全く別物です。②は、「外界の出来事が」「救済につながっていった」とあるので、これは「見る対象」についてであり、「見ること」とは違います。④は「想像をかき立てて」の部分がダメ。実際に見ているので、想像ではないです。⑤は「視覚的につながった」という表現が曖昧ですが、その後の「作風に転機をもたらした」の部分が、傍線部「日々の移り変わりを楽しむことができた」とかけ離れていて、言い換えとして論外です。)

問3. 傍線部B「ガラス障子は『視覚装置』だといえる。」とあるが、著者がそのように述べる理由として最も適当なものを、次の①〜⑤のうちから一つ選べ。解答番号は7。

傍線部の直前の一文だけ読めば解ける問題です。ガラス障子が「外界を二次元に変えるスクリーンでありフレーム」となったという部分を言い換えている選択肢が正解なので、「外の世界を平面化されたイメージとして映し出す仕掛け」と丁寧にパラフレーズしている選択肢②しか正解がありません

(選択肢①③④については、「二次元」化を適切に言い換えているものがなく論外です。⑤は「絵画に見立てる」と書いてるため惜しいのですが、選択肢後半に「風景を鑑賞するために空間へと室内を変化させる仕掛け」と書いてあります。本文では「外界を」「変える」と書いてるため、変化対象が室内ではなく間違いです。)

問4. 傍線部C「ル・コルビュジエの窓は、確信を持ってつくられたフレームであった」とあるが、「ル・コルビュジエの窓」の特徴と効果の説明として最も適切なものを、次の①〜⑤のうちから一つ選べ。解答番号は8。

この問題はどこを読んで解くべきでしょうか?
傍線Cの段落から「ル・コルビュジェの窓」が「子規の窓」の対比項として新たに加わります。
しかし、ル・コルビュジエの方が子規よりも住まいを視覚装置として考えることを徹底していたという、程度の強さについてしかここでは論じられていないため、設問で要求される具体的な「特徴と効果」の説明は未知情報です。なので、傍線C以降を見て解答を決定しましょう。
ただし、「特徴」と「効果」は別なので注意しましょう。「特徴」は他のものと比べないと見えてこないもので、「効果」は結果的にもたらされるもの(目的ではない)です。選択肢は、前半が特徴について、後半が効果についての記述で構成されています。
実際、直後の段落だけを読めば問題ないです。

「ル・コルビュジェエは、窓に換気ではなく「視界と彩光」を優先したのであり、それは「窓のフレームと窓の形」、すなわち「アスペクト比」の変更を引き起こした」
と書いてある箇所が最初の具体的な特徴説明にあたり、この部分を押さえているのは選択肢⑤(正解)だけで、「換気よりも視覚を優先した」とほとんどそのままの引用です。
(選択肢①は「カメラの役割を果たす」とあるなど、これは子規のガラス障子の説明とほとんど変わりがないです。②は、「居住性を向上させる機能」など的外れ。③は「アスペクト比の変更を目的とした」が誤り。ただ単にアスペクト比(縦横の比率)を変えることが目的じゃなくて、良いアスペクト比にするのが目的だとちょっと考えればわかりますよね。③の後半「室外の景色が水平に広がって見えるようになる」の箇所は、本文にありますが、実際にル・コルビュジエがレマン湖に建てた家に限った説明なので、一般化すると「水平」の部分は余計です。
④は惜しいですが、「居住者に対する視覚的な効果に配慮」の部分が何と比べて特徴的なのかがわからず不十分。)

問5.傍線部D「壁がもつ意味は、風景の観照の空間的構造化である。」とあるが、これによって住宅はどのような空間になるのか。その説明として最も適当なものを、次の①〜⑤のうちから一つ選べ。解答番号は9。

文章Ⅱの方が硬質な文体のため戸惑われた方も多いと思いますが、この設問はシンプルです。
抽象的な傍線部自体の意味が分からずとも、その文が直前の具体的な二つの文の抽象的な言い換えであることを理解しましょう。
直前二文は「視点と風景は、一つの壁によって隔てられ、そしてつながれる。」「風景は一点から見られ、眺められる。」
風景を一点から見ることを言い換えている選択肢は②か③しかないのですが、選択肢②はそのことを「自由が失われる」とネガティブに評価しています。よって正解は選択肢③。後半の「住宅は内部の人間が静かに思索をめぐらす空間になる。」の箇所も、「沈思黙考」のテーマと適合していますね。
(選択肢①は、光を取り入れることが論点になっていて不適。④は、「選別された視覚」が、⑤は「外界に対する視野に制約」がそれぞれ不十分です。単に狭い視覚を窓が作るのではなく、それがまさしく動かぬ固定された「一点」であることが本文で強調されています。)

(「風景の鑑賞の空間的構造化」が「沈思黙考」につながることを正確に理解するには捕捉が必要でしょう。柄谷行人『日本近代文学の起源』などでも指摘されている通り、「風景」を自己と切り離されたものとして客観的に眺めることが近代的自我の「内面」の発生に関わっているという考え方があります。
西洋近代が発展させた絵画における「遠近法」も、空間を絶対的基準のもとに位置付けますが(構造化)、その際には視点を一点に固定する必要があるでしょう。その視点は外界と隔絶したデカルト的コギト=独立して考える私の位置です。そうして本来は分離できない主観/客観を徹底的に分離することで、内面にこもって思索する自己が成立するという近代的構図を、近代建築の生みの親であるル・コルビュジェが建築的に設計したという指摘がこの文章の面白いところです。)

問6.

問6. ⅰ.空欄Xに入る発言として最も適当なものを、次の①〜④のうちから一つ選べ。解答番号は10。

この問題は本文を適切に処理すれば簡単ですね。
文章ⅠとⅡで相違するのは引用部の後半であり、ⅠのうちⅡで中略となっている部分は、視界を遮って広がりを求めることが、Ⅱにのみ追加されている部分は”囲われた庭”の形成が、それぞれの引用目的の違いを表しているでしょう。
まず前半からしぼると、「視界を遮って広がりを求めること」を、抽象的に壁と窓の効果や機能としてまとめている選択肢②か④が候補として残ります。

選択肢の後半を比べてみましょう。
②は「どの方角を遮るか」が、④「視界を遮って壁で囲う効果」が、それぞれの着目点ですが、本文を読む限り、著者が西陽を避けるなど「どの方角を遮るか」を問題にしている箇所は見当たらないため、④が正解になります。
(選択肢①は、「壁の圧迫感」というまとめ方が文章Ⅰについて不適です。選択肢③は、文章Ⅰが「外に広がる圧倒的な景色とそれを限定する窓の役割」の内容だ、と言っていますが、その箇所は文章Ⅱでも引用されているため、対比しようがありません。よって不適です。)

ポイントとしては、これは引用文だけ読めば良い問題ではないということです。
引用には必ず引用目的があり、それは著者がその引用に対して評価している他の部分を読まなければ明確になりません
文章Ⅱの著者がもしも「方角」について全体で詳しく論じていれば、選択肢②が正解になる可能性もあります。

問6. ⅱ. 空欄Yに入る発言として最も適当なものを、次の①〜④のうちから一つ選べ。解答番号は11。

現代文では、共通する性質を持つものを二つ以上並べて、一方の理解を深めるアナロジー(類推)という文章技巧が用いられます。
一方で何かを対比する際にも、ある程度重なり合う部分がなければそもそも比較することすらできませんよね。
10円玉と火星人は比較できませんが、イカとタコは比較しやすいように。

今回は子規のガラス障子が、ルコルビュジエの窓のアナロジーとして挙げられているわけですから、両者に共通する性質について考える必要があります。
選択肢②は、「居住者と風景の関係」、③は「彩光」について、④は「換気と彩光」についてが文章Ⅰの主題だと主張しているわけですが、③と④は明らかに間違いですよね。部屋を明るくする「彩光」は、子規についての議論の際には全く登場していません。よって選択肢②が正解です。
(選択肢①も、「ルコルビュジエの建築論現代の窓の設計に大きな影響を与えたこと」が文章Ⅰの主題かのような取り上げ方ですが、そもそも影響関係についてはほとんど取り上げられていなかったので不適切ですね。どちらかというとルコルビュジエ自身の思想がテーマです。)

問6. ⅱ. 空欄Zに入る発言として最も適当なものを、次の①〜④のうちから一つ選べ。解答番号は12。

選択肢全てに共通するのが、「子規の書斎も」という部分です。つまり子規とルコルビュジエの共通項を見出すのがこちら問題でもテーマなんですね。ということは、そもそもルコルビュジエについての文章Ⅱでの議論で、主題化されているものでなければ正解になりえない。よって選択肢①「宗教建築」②「仕事の空間」の箇所はどちらも不適切です。選択肢④は、内容自体は正しいものですが、この内容は文章Ⅰを読むだけでも導き出せる考察です。この設問では、文章Ⅱの要素を取り入れた考察が求められているので、「沈思黙考」を共通項として考えている選択肢③が正解になります。

まとめ

文章Ⅱが一見難解でしたが、全体としては本文の中でも直前直後を正確に読んでおけば解答できる問題が多く、例年並みの難易度だったと言えるでしょう。2022年度の評論は文章自体が破綻していてどうしようもなかったのですが、今回は理路整然としたので、合理的思考ができる方にとっては簡単だったかもしれません。

第2問小説については、以下のページで詳細に解説しております。

ではでは。

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